授乳中はアルコールを飲まないお母さん、授乳中もアルコールを少々たしなむお母さん、どちらもいらっしゃるように思いますが、皆様はどうされているでしょう。どうすればよいのか悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。今日は、アルコール摂取と母乳育児についてどんな研究データがあるのか、授乳中のアルコール摂取についてどのような提言があるのか、などについて紹介したいと思います。
まず、アメリカ小児学会が2012年に発表した『母乳と母乳育児に関する方針宣言』には、
「アルコール飲料の摂取は最小限に抑え、体重1kgにつきアルコール0.5gを超えない範囲で時折摂取する程度にとどめるべきである。このアルコール量は、体重60kgの母親であれば、リカーおよそ2オンス(60cc)、ワイン8オンス(240cc)、ビール2本(350cc x 2本)。また、母乳に含まれるアルコール量を少なくするために、授乳中のアルコール摂取は避け、アルコール摂取して2時間以上間隔をあけてから授乳する。」と書かれています。
次に、トーマス・ヘイル医学博士の著書『Medications and Mother's Milk(薬と母乳:2012年版)』によると、アルコールの授乳へのリスクレベルはL3となっています。これは、’おそらく安全’というレベルで、症例対照研究により副作用の影響が少ないことがわかっている、または、赤ちゃんへの副作用リスクはあり得るが十分な症例対照研究が行われていない、のいずれかであることを示しています。同書には、「血液中に含まれるアルコールは、ほぼそのまま母乳に移行する。ただし、一般的には母乳に含まれるアルコールの絶対量は少なく、母親のアルコール濃度と相関関係がある。アルコール依存症患者または常習飲酒家は授乳すべきではない。(一部抜粋)」と書かれています。
『Breastfeeding Answers Made Simple』には、
「アメリカで行われたある調査では、授乳中で産後3か月のお母さんのうち36%が飲酒していたが、ほとんどは週3回以下だった。」
また、
「アルコールが母乳を通じて赤ちゃんに移行する量は、お母さんがアルコールと一緒に食事をするかどうか、また授乳前に搾乳するかどうかによって異なる。一緒に食事をせずにアルコールを飲んだ場合、血中アルコール濃度は30−60分後にピークとなるが、食べものと一緒に飲んだ場合は、60−90分後がピークとなる。ある研究では一緒に食事をとることでアルコール濃度が約38%減少し、更にアルコール飲酒前1時間以内に搾乳すると母親の体内アルコール濃度が58%まで減少した。(抜粋)」と書かれています。
カナダの家庭医学誌に発表されたギデオン・コレン医学博士の『母乳育児中の飲酒』には、お母さんの体重毎に、アルコールの摂取量と母乳からアルコールがなくなるまでの 時間が表になっています。詳細はこちら。
この表を見ると、例えば55kgのお母さんが5%のビールを一本(340cc)飲むとお母さんの体からアルコールがなくなるまでに約2時間30分かかることがわかります。
参考まで、日本語でアルコールの血中濃度を計算できるサイトもこちらにありました。
以前、知り合いから「ドイツではビールを飲むと母乳がよく出ると言われている」と聞きました。確かにビールに含まれるホップは母乳促進作用があり、母乳生成に必要なホルモン’プロラクチン’の分泌を促進します。ただし一方で、アルコールは斜乳反射を助けるホルモン’オキシトシン’の分泌を抑制するため、結果、ビールを飲むと母乳量は減少することが今ではわかっています。
飲酒によって母乳の量が減ったり、風味が変わるだけでなく、赤ちゃんの眠りが短くなることがあります。新生児期など、授乳頻度が特に高い間は、タイミングも気をつけましょう。飲酒するとお母さんの眠りが深くなり、赤ちゃんの動きや泣き声に気づかないこともあります。乳幼児突然死症候群(SIDS)を予防するためにも、飲酒量が多い日の添い寝は避けましょう。
授乳期間のアルコール摂取の注意事項を以下に整理します。
・ 飲酒する際は、最小限の量と頻度にとどめる。
・ 飲酒の直前に授乳する。
・ 飲酒前に搾乳する。
・ 食事をとりながら飲酒する。
・ 次の授乳まで2時間以上間があくときに飲酒する。
よく質問される話題なので母乳育児とアルコールについて書きましたが、母乳育児中の飲酒を勧めているわけではありません。お母さんによって、お酒に強かったり弱かったり、また体重や体調によっても状況が異なりますので、赤ちゃんとお母さんの様子を見ながら皆様にあった方法を選択して下さい。
<参考文献及びウェブサイト>
Hale (2012), Mothers Milk and Medication
Mohrbacher (2010), Breastfeeding Answers Made Simple, Hale Publishing
Breastfeeding and the Use of Human Milk, Pediatrics (February 27, 2012)
Canadian Family Physician
アルコール計算機〜分解時間と血中濃度
まず、アメリカ小児学会が2012年に発表した『母乳と母乳育児に関する方針宣言』には、
「アルコール飲料の摂取は最小限に抑え、体重1kgにつきアルコール0.5gを超えない範囲で時折摂取する程度にとどめるべきである。このアルコール量は、体重60kgの母親であれば、リカーおよそ2オンス(60cc)、ワイン8オンス(240cc)、ビール2本(350cc x 2本)。また、母乳に含まれるアルコール量を少なくするために、授乳中のアルコール摂取は避け、アルコール摂取して2時間以上間隔をあけてから授乳する。」と書かれています。
次に、トーマス・ヘイル医学博士の著書『Medications and Mother's Milk(薬と母乳:2012年版)』によると、アルコールの授乳へのリスクレベルはL3となっています。これは、’おそらく安全’というレベルで、症例対照研究により副作用の影響が少ないことがわかっている、または、赤ちゃんへの副作用リスクはあり得るが十分な症例対照研究が行われていない、のいずれかであることを示しています。同書には、「血液中に含まれるアルコールは、ほぼそのまま母乳に移行する。ただし、一般的には母乳に含まれるアルコールの絶対量は少なく、母親のアルコール濃度と相関関係がある。アルコール依存症患者または常習飲酒家は授乳すべきではない。(一部抜粋)」と書かれています。
『Breastfeeding Answers Made Simple』には、
「アメリカで行われたある調査では、授乳中で産後3か月のお母さんのうち36%が飲酒していたが、ほとんどは週3回以下だった。」
また、
「アルコールが母乳を通じて赤ちゃんに移行する量は、お母さんがアルコールと一緒に食事をするかどうか、また授乳前に搾乳するかどうかによって異なる。一緒に食事をせずにアルコールを飲んだ場合、血中アルコール濃度は30−60分後にピークとなるが、食べものと一緒に飲んだ場合は、60−90分後がピークとなる。ある研究では一緒に食事をとることでアルコール濃度が約38%減少し、更にアルコール飲酒前1時間以内に搾乳すると母親の体内アルコール濃度が58%まで減少した。(抜粋)」と書かれています。
カナダの家庭医学誌に発表されたギデオン・コレン医学博士の『母乳育児中の飲酒』には、お母さんの体重毎に、アルコールの摂取量と母乳からアルコールがなくなるまでの 時間が表になっています。詳細はこちら。
この表を見ると、例えば55kgのお母さんが5%のビールを一本(340cc)飲むとお母さんの体からアルコールがなくなるまでに約2時間30分かかることがわかります。
参考まで、日本語でアルコールの血中濃度を計算できるサイトもこちらにありました。
以前、知り合いから「ドイツではビールを飲むと母乳がよく出ると言われている」と聞きました。確かにビールに含まれるホップは母乳促進作用があり、母乳生成に必要なホルモン’プロラクチン’の分泌を促進します。ただし一方で、アルコールは斜乳反射を助けるホルモン’オキシトシン’の分泌を抑制するため、結果、ビールを飲むと母乳量は減少することが今ではわかっています。
飲酒によって母乳の量が減ったり、風味が変わるだけでなく、赤ちゃんの眠りが短くなることがあります。新生児期など、授乳頻度が特に高い間は、タイミングも気をつけましょう。飲酒するとお母さんの眠りが深くなり、赤ちゃんの動きや泣き声に気づかないこともあります。乳幼児突然死症候群(SIDS)を予防するためにも、飲酒量が多い日の添い寝は避けましょう。
授乳期間のアルコール摂取の注意事項を以下に整理します。
・ 飲酒する際は、最小限の量と頻度にとどめる。
・ 飲酒の直前に授乳する。
・ 飲酒前に搾乳する。
・ 食事をとりながら飲酒する。
・ 次の授乳まで2時間以上間があくときに飲酒する。
よく質問される話題なので母乳育児とアルコールについて書きましたが、母乳育児中の飲酒を勧めているわけではありません。お母さんによって、お酒に強かったり弱かったり、また体重や体調によっても状況が異なりますので、赤ちゃんとお母さんの様子を見ながら皆様にあった方法を選択して下さい。
<参考文献及びウェブサイト>
Hale (2012), Mothers Milk and Medication
Mohrbacher (2010), Breastfeeding Answers Made Simple, Hale Publishing
Breastfeeding and the Use of Human Milk, Pediatrics (February 27, 2012)
Canadian Family Physician
アルコール計算機〜分解時間と血中濃度