先月ラ・レーチェ・リーグで母乳が出るしくみについてお話ししたときに、母乳を作るホルモンの『プロラクチン』と母乳を乳管に押し出すホルモン『オキシトシン』があると紹介しました。その際、オキシトシンはピトシンと同じものだという話題が出ました。 出産時に、ピトシンを投与される際に、「体内で作られるホルモン『オキシトシン』と同じです。」と説明されると聞きます。陣痛促進剤に入っているピトシンと体内で分泌されるオキシトシンが同じものだという話が気になったので、オキシトシンとピトシンについて調べてみました。
オキシトシンは、ヒトの体で作られるホルモンで、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれています。授乳中には、オキシトシンの働きで母乳が乳管へ押し出されたり、ゆったりとした気持ちになったりします。分娩時にもオキシトシンが働いて、陣痛を促進し赤ちゃんを押し出すように作用します。
一方、ピトシンは 人工的に作られたオキシトシンの合成薬で、 陣痛促進剤として 静脈注射で投与されたり、産後に子宮収縮剤として使われたりします。ピトシンは、化学的にはオキシトシンと同じですが、投与されたときのヒトの反応や働きが異なります。
以下、5つの違いを紹介します。
1.放出頻度の違い
オキシトシンにより陣痛が促進されるため、量が増えると痛みを感じます。体内のオキシトシンは、分娩中間隔をあけて分泌されるため、オキシトシンの量が減る間に体を休めて回復できますが、ピトシンは静脈注射で継続的に投与されるため、長く強い陣痛が続き胎盤や赤ちゃんにかかる負担が大きくなります。このため赤ちゃんが酸素不足になったり、心拍数が下がることがあります。痛みが強いために、痛み止めを併用する方が多くなります。
2.痛み止め作用の違い
自然分娩では、オキシトシンが分泌され陣痛がおこると同時に、その痛みを和らげるためにモルヒネに似た役割を果たすエンドルフィンが体内から分泌されます。ピトシンではエンドルフィンは分泌されませんので、痛み止めの量を増やすお母さんもいます。
3.子宮腔を広げる役割の違い
分娩中に赤ちゃんから分泌されるオキシトシンが子宮の筋肉に働きかけて、子宮腔が広がりやすくなります。ピトシンはその効果が低いため、子宮腔を広げるためには、ピトシンの量をさらに増やす必要があります。ただし、ピトシンの量が増えるとお母さんが感じる痛みがさらに強くなります。
4.分娩時の分泌量の違い
自然分娩では、出産時に大量のオキシトシンが放出されて赤ちゃんが外に出るための反射を助けますが、ピトシンにはこの効果がありません。
5.赤ちゃんとのボンディング の違い
体内で放出されるオキシトシンは、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれます。出産時に大量に分泌されるオキシトシンのおかげで、出産直後から赤ちゃんを愛おしいと思う気持ちが強まり赤ちゃんとのボンディング(結びつき)を強めてくれます。一方、ピトシンは、体内のオキシトシン分泌を抑制するため、この効果はありません。
また、ピトシンには、さまざまな副作用があることも報告されています。体内で作られるオキシトシンには、もちろんこのような副作用はありません。
<母体への副作用>
産後出血
不整脈
吐き気
嘔吐
骨盤血腫
クモ膜下出血
<新生児への副作用>
低アプガー指数(5分後)
新生児黄疸
網膜出血
雑誌「マザリング(Mothering)」に、「米国で病院出産する女性の81%が陣痛を開始、促進するためにピトシンを投与されている」という調査が紹介されていました。同記事によれば、医学的に投与が必要とされるのは3%のみだそうです。
オキシトシンとピトシンは化学的に同じでも、さまざまな違いがあることがわかりました。自然分娩に比べて、ピトシンを使ったときの陣痛が、がまんできないほど強く長く続いた原因がようやくわかりました。
いずれ研究が進むと、母体のオキシトシンの分泌量をまねてピトシン投与量の増減がコントロールできるようになるかもしれません。